LEXUSとの取り組みについて

作り手の情熱が開いた、ものづくりの新たな可能性。

2020年11月。LEXUSの新型LSの内装にプラチナ箔が採用されました。日本の伝統工芸品が高級車に採用されることは、大変に珍しいことです。特にプラチナ箔が自動車内装に使われるのは、世界で初めてとなります。このプロジェクトの実現には、大変な困難が伴いました。そこには、技術者たちの数年にもわたる努力がありました。その物語についてご紹介をします。

目次

工芸品と工業製品。二つの日本のものづくりの融合。
精密さと曖昧さ。水と油のような要素を両立させる。
現場の熱意が、不可能なプロジェクトを現実に。
新しい伝統の在り方を示すプロジェクトに。
日本のものづくりの実力を、世界に伝えたい。


世界で初めて、自動車内装に採用された金沢箔。

このLEXUSの新型LSのインテリアをプラチナ箔で彩るというプロジェクトは、スタートから完成まで、およそ7~8年を要しました。
大変に難しい仕事で、何度も暗礁に乗り上げました。スタート時のスタッフもほとんど入れ替わりました。それでも困難を乗り越えて、完成に至ったことにはトヨタ自動車様のものづくりへのこだわりや探求心、粘り強さ、またそれに応えてきた技術者の努力があります。

 

  


工芸品と工業製品。日本のものづくりの融合。

このプロジェクトは、工芸品と工業製品の融合ともいえるものでした。
工芸品と工業製品には大きな違いがあります。特に自動車のような高度な工業製品の場合、精密に均一化された品質が求められます。100個作れば、100個同じものができる。そのブレの少なさ、精密さが、日本製品への信頼の基盤ともなっています。なかでもトヨタ自動車は、日本のものづくりの水準を示す象徴的な存在ともいえるでしょう。


精密さと曖昧さ。水と油のような要素を両立させる。

トヨタ自動車の品質基準は、世界で最も厳しいとも言われています。それを超えられたのなら、ほかのどの仕事でもできるといわれているほどです。
一方で、伝統工芸には曖昧さがあります。手作りだからこそ生まれるゆらぎ。自然素材を使うからこその一つひとつの個性。そして、それらの偶然性によって生まれる美しさは、日本人の心を魅了する、工芸品の命ともいえるものでしょう。精密な均一性を求められる工業製品と、自然なゆらぎに優雅な美を見出す工芸品。これらは、本来、相容れないものです。ですから、今回のプロジェクトは、まさに水と油を合わせるようなもので、実現したことが奇跡的ともいえます。



現場の熱意が、不可能なプロジェクトを現実に。

この実現に、大きく貢献した要素が2つあります。
その一つは、トヨタ自動車のデザイナー様の存在です。
ご担当いただいたデザイナー様は、この期間、何度も金沢まで足を運ばれ、私たちの製造現場を熱心に視察されました。発注側という立場をこえ、箔の素材のこと、技術のこと、作り方から、文化、歴史、職人の思いなど、本気で箔を学ぼうとされていました。これほどまでに熱心な方は、記憶にないほどです。トヨタの基準に一方的に私たちを合わせることはせず、箔を学び、その美しさを取り込むにはどうすればよいか、真剣に考えられていました。その熱心さが、トヨタという大きな会社を動かしたといっても良いでしょう。

もう一つは、当社の技術スタッフの努力です。
工芸品には、曖昧さがあります。ですが自動車という人間の生命を預かるものに搭載する以上は、作り手の責任も重いものになります。その責任を果たすために、現場は、実に細かな資料を作り続けました。例えば、糊を塗るという作業があります。このシンプルな作業も、細かく分解していきます。手を振るスピードや回数、一回のストロークで付着する糊の量などを精密に計測して数値化し、均一化させていきました。熟練の職人であればほぼ無意識にこなしていける作業ですが、そうした経験や勘に頼った仕事を一つひとつ分析し、数値化して明確にすることで、トヨタ自動車の厳しい品質基準をクリアできるレベルにまで引き上げたのです。


新しい伝統の在り方を示すプロジェクトに。

このLEXUSとの仕事によって、伝統産業も一つの新しいステージ来ているのではないかとも感じています。箔一では、かねてより伝統とは守るだけのものではなく、現代社会の中で活用され価値を認められてこそ意味があると考え、挑戦をしてきました。その結果として、トヨタ自動車のような、日本を代表する企業に採用されたことには、大きな意味があります。


日本のものづくりの実力を、世界に伝えたい。

LEXUSは、世界戦略のブランドです。
なかでもLSはフラッグシップモデルといえるものです。つまり、これは単なる製品ではなく、日本のものづくりの実力を世界に示すことができる作品ともいえます。こうしたものに、日本の工芸品が使われたことは、大変に喜ばしいことです。そして、それを実現するための作り手たちの熱意や努力を見ると、まさに日本のものづくりの力が結集された一台になったと感じています。