金澤しつらえ

代表的な茶屋建築でもある「金澤しつらえ」。金沢市指定保存建造物。

金澤しつらえ/金沢市指定保存建造物の修繕

大切な街の財産として次の世代に受け継いでいきたい。

金澤しつらえは、特別な建物です。
金沢市指定保存建造物となっており、その歴史や建築様式はもちろんのこと、佇まいなども含めてひがし茶屋街の大切なものを受け継いできています。広見に位置しており、街のシンボルともいえる「見返り柳」が正面にあることから、ここを訪れる観光の方の記念撮影のスポットとしても人気となっています。
また、茶屋街の角地にあることから、構造的にも重要な意味を持っています。茶屋街の建物はつながり、構造を共有しています。端にある建造物は、常に一方からの圧力を受け、もう一方には支えになるような建物はありません。そのため、傾きやすいのです。万が一、ここが倒れることがあれば、ドミノ倒しのように、茶屋全体が傾くことになりかねません。私たちは、この建物を受け継ぐにあたり、その風情を大切にしながらも、構造は現代の建築基準法にも耐えうるレベルに強化をしました。この建物には、茶屋街全体を支える使命があるのです。
様々な史料を紐解くと、この物件の歴史は、1820年のひがし茶屋街の公許・成立のころまでさかのぼります。当時は2軒の茶屋として建てられたようです。その後、何度かの改修を経て1つの建物となりました。150年ほど前の資料では、ほとんど今と変わらない外観が確認できます。改修を重ねたことの名残でしょうか、まるで入れ子のように、蔵が屋内に建っているのも特徴的です。
出格子には、茶屋街を代表する様式である木虫籠(きむすこ)が使われています。その名の通り、虫籠のように細く規則的なスリットが特徴で、一本ずつの格子が、内側にすぼまるような形状をしています。このことで、外からは中が見えず、中からは外がよく見える、現代でいうところのマジックミラーのような効果を生み出しています。茶屋建築では2階座敷が客間で、1階は人目に触れない控えの間とされていました。風通しがよくプライバシーも保たれ、外の様子を眺めることもできる木虫籠は、まさに先人の知恵です。こうした特徴を備えた本物の木虫籠は、今では数少ないものとなっています。
また弁柄塗(べんがらぬり)の外観も特徴的です。弁柄とは、酸化鉄を基本とした独特のやわらかい赤味の色彩で、インドのベンガル地方に由来するそうです。古来の手法に倣い、柿渋を混ぜて外側の塗装に使っています。
また屋内では、藁と土を混ぜた聚楽壁(じゅらくかべ)が目を引きます。部屋に応じて、朱や浅葱など、日本の伝統的な色彩を表現しています。大階段を二階に上がる手前、壁の穴に十六層左官と小さな看板を取り付けました。かつて、調査のために壁を掘られた際、16回もの塗りなおされた跡が出てきました。200年の間、何度も改修され、その都度塗られた異なる色彩がまるで地層のように重なっています。まさに、この建物の歴史そのものですね。聚楽壁は、調湿機能や消臭また防火の機能も高いとされ、その時々の持ち主が建築物を守るために、用いたものだと推察できます。
歴史ある建物には、柱や壁、床材など、そのすべてに歴史や物語が詰まっています。改修の際には、外した建材は少しも捨てず、別の場所で活用するなどして、保存するよう心掛けました。この物件は、今は私たちの所有物ではありますが、歴史ある金沢の共有財産として扱っています。大切に守り、しっかりと次の世代に受け継ぐことを一番の目的としているのです。
幕末期の様子。正面木戸の奥が現在の「金澤しつらえ」か。
東新地絵図 「東新地絵図 金沢市立玉川図書館所蔵」
1888年頃の外観。当時は「諸江屋」という屋号でした。
旧諸江屋 出典:石川縣下商工便覧(十月社)