
虹・彩
まずこの絹本に礬砂(※1)をひき、膠(※2)で箔をあしらっていきます。礬砂は水分が多いため、和紙が水を吸って膨張し、やがて乾くにつれて縮んでいきます。4mもの大きさがあると、伸縮幅は数センチにも及びます。一方で、箔を美しく貼るためには常に和紙をピンと張っておかなければなりません。縮んだ状態で固定すると、伸びたときにたわみます。逆に伸びたときに合わせれば、縮んだ際に和紙が破れるおそれもあります。今回の絹本は特注品のため予備はなく、失敗が許されない中での繊細なコントロールが続きました。
絹本の魅力はその高貴な光沢感です。これは、絹が本来持っている光沢に加え、その格子状の縫い目に光が複雑に反射することによって生まれるものです。絹本への箔押しは、この美しい絹の質感と箔を融合させなければなりません。絹の光沢を活かすには、その縫い目の一つひとつにまで箔が入り込むように丁寧に箔をあしらっていく必要があります。職人の丁寧な手仕事によって、絹ならではのテクスチャーが存分に生かされ、まるで「黄金の絹」がそこにあるかのような高貴な輝きを持った絹本となりました。
箔一の職人が箔を貼り上げた絹本は、小松美羽さんの手元にわたりました。彼女は東寺の食堂(じきどう)に籠り、素晴らしい作品を作り上げました。金箔とすべての絵が一体化した美しい作品となっています。お披露目会では、まるで金箔自体から光が発せられるかのような、美しい輝きが多くの人を魅了していました。