金沢箔のゆらぎが生む静寂と高揚
世界的に高い評価を得る日本発の高級車ブランド『LEXUS』。そのオーナーのためのスペースに、箔加飾を施しました。
2023年8月。名古屋市中川区にNTP名古屋トヨペット株式会社が経営する「レクサス山王」がオープンしました。その2階に、この店独自のオーナーズラウンジがしつらえられています。「クラブレクサス」は、同店の顧客であれば自由に使うことができ、癒しとともに知的な刺激をも受けられる施設です。整備や洗車の待ち時間をゆったり過ごしたり、一人静かに仕事に励んだり、また子供を連れて集まって交流することもできる、多目的なスペースとなっています。
この「クラブレクサス」は、レクサスの思想を最も良く表現しているといえるかもしれません。細部にまで厳選した素材を用いながら、華美で豪華な印象ははなく、思慮深く、洗練された豪華さが表現されています。空間構成は、伝統的な日本家屋を下敷きにしており、それぞれに個性的で、ストーリーを感じる雰囲気が創り出されています。随所に日本のクラフトマンシップを表現する装飾がなされており、箔一の金沢箔もその一つとして採用されています。
クラブレクサスは露地空間より繋がる、縁、庵、書、間、座、居の6つのシーンから作られています。このうち金沢箔が用いられたのは、「縁」の部分です。「縁」とは縁側など、端にあるものの意味。家屋においては、外と中をつなぐ中間的な場所となります。また縁は“えにし”とも読めます。外と中を繋ぐ場所であり、すなわち人と地域社会の縁を創り出す役割ももっています。「縁」は、この空間の物語が始まるイントロダクションであり、静寂と高揚が同居する場所です。
この「縁」の中央に、水の流れを感じさせる映像作品があります。流動的な造形の壁材に金沢箔を加飾し、水の流れを表現する映像を映し出しています。躍動感と静寂性を併せ持つレクサスらしい造形であり、これから始まる物語への期待感を膨らませる演出でもあります。金沢箔は、乱反射を生む「もみちらし」の技法を用いました。これは金沢箔をフレーク状に砕いて用いる伝統技法で、華やかな輝きのなかにも、独特の深みを感じさせるのが特徴です。これが抽象化された水流の映像に、透明感や清らかさを実感させる効果を生み出しています。
金沢箔の加飾は、いまも職人の手によって作り出されています。フレーク状の箔がもつ形状のばらつきは、手仕事ならではの優雅なゆらぎとなり、工芸作品ならではの魅力を創り出しています。それでいながら、耐久性などの面では、現代の建築にふさわしい品質を備えています。受け継がれてきた伝統技法と、近代的な技術を組み合わせることで多彩なテクスチャーの表現を創り出せるのが箔一の特徴です。
箔一では、今回の計画を進める中で、いくつものサンプルを提案させていただきました。実際にプロジェクターから映像をあてながら、検討と調整を繰り返して、理想の表現へとたどりつきました。箔一は、多彩な箔の種類とあしらい方の掛け算によって、無数の表現のバリエーションを持っています。その選択肢の広さと、目的に応じて的確な表現を提案できる経験値は箔一ならではです。
レクサス山王クラブレクサスで採用された箔加飾の施工風景です
レクサス山王 クラブレクサス
住所:愛知県名古屋市中川区松重町3番36号