寺社・仏閣
建築装飾の実績紹介

喜光寺|奈良

奈良県の喜光寺は、奈良時代からの歴史があり、東大寺大仏殿の雛型とされる由緒あるお寺です。新設された、佛舎利殿本尊への金箔装飾を行いました。

 

喜光寺の歴史について。

喜光寺は奈良市菅原町にあります。その歴史は古く、奈良時代・西暦721年までさかのぼります。平城京内に行基菩薩によって創建されました。行基は日本仏教史に名を残す僧侶で、日本で初めて最高位である大僧正に就いた人物です。奈良東大寺の大仏建立の実質的な責任者としても活躍し、東大寺の「四聖」の一人に数えられています。西暦748年、聖武天皇がお参りした際に、ご本尊から不思議な光が放たれました。聖武天皇は大変喜び「歓喜の光の寺である」として喜光寺と名付けたと言い伝えられています。


 

仏教と魂と金箔について。

今回は喜光寺の佛舎利殿にて、本尊およびその壁面に金箔を施工しました。ここは人々が先祖供養する為のお堂です。「金」は仏教において特別な意味を持つ色彩です。『仏教美術事典』(東京書籍2002)には、「金は装飾性と聖性という両義性を有しており、そのため仏教美術では特に好まれた」という記述があります。

四十九日や一周忌など、仏教は私たちの死生観に大きな影響を与えています。仏教では、人は死後、魂となって死後の世界をさまよい、やがて浄土に到達するとされています。美しくかつ神聖であるという「金」は、人々が心安らかに先祖に寄り添うのにふさわしい色彩と言えるでしょう。

 

困難だった、砂岩への施工。

喜光寺にて、佛舎利殿本尊とその壁面に施工をしました。本尊は砂岩で造られていました。金箔はあらゆるものに貼れますが、それぞれの特性によって、難易度は変わります。砂岩はスポンジのように水分を吸い込むため、接着剤の塗布が難しく、しっかり貼るには高度な技術が求められます。また、表面にはかなりの凹凸がありました。箔が破れれば地の素材が見えてしまい、美しさが損なわれます。そのため、全体に2重に箔を貼り、さらにそれでも貼り切れないところは部分的に補強するなどして、箔施工を行いました。

施工を終えて。

美しい金の輝きを表現することはもちろんのこと、金沢箔らしい手仕事の良さにもこだわりました。本尊のお顔の部分は特に丁寧に施工し、その優しいほほ笑みが、より生き生きとされたと思います。喜光寺の住職様も、大変に興味深く、施工の様子をずっと見学され、完成した本尊に大変喜ばれていました。