2019年1月21日

コラム 第7回 「働き方改革と労働生産性」

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《経団連審議院会副議長として提案》

コラム 第7回 「働き方改革と労働生産性」

 

経団連は夏季フォーラム2018経団連宣言で、働き方改革について「多様な人材がイノベ―ティブに活躍するための働き方改革を加速する」と言う宣言をしました。この働き方改革につきましては、大前提として日本全体の企業で推進すべき課題だと捉えております。また働き方改革を実施する方法やタイミングについては、各企業の判断に委ねられるべきと思います。

 

特に大企業と中小企業に分けた議論が必要と考えております。

中小企業については、すぐに実施できる余裕のある企業とそうでない企業があり、中小企業の事情にも鑑みた政策であるべきです。日本の中小企業の強みとする「手わざ」や「感性」を重視する創造性の高い仕事は、時間の制約を受けずに取り組まなくてはならず、労働時間を短縮しにくい領域もあります。

 

中小企業では社員数は少ないものの、個々の労働者に目を向けると多様な人生設計がありますので、単純に労働時間を短縮するのではなく、ライフステージに適した働き方を労働者が選択できるような制度設計をする必要があります。例えば、労働時間に縛られず成果に応じた報酬を得たい世代については、裁量労働制を選択できるようにします。また、子育てや介護等の家庭の事情がある場合には、フレックスタイム制、短時間正社員制度等を選択し、出退社の時間に自由度を持たせる必要があります。人生のライフステージに応じて働き方を選べるようにする必要があるのです。人材の採用が容易でない地域の中小企業においては、このような多様な働き方ができるような制度設計を行い、育った人材が長く働いていただく職場を整備することが求められます。

 

他国に目を向けると、日本よりも労働時間や労働生産性が上回る国もあります。

例えば、意外ですが、米国は日本に比べ労働時間が長く、労働生産性も高いため世界的な競争力を維持しております。日本全体の事を考えると、労働生産性を上げる前に労働時間を短くしてしまえば、国際的な競争力が落ちるのではないかと危惧しております。このため労働時間の短縮と労働生産性の向上については、同時並行に推し進めて、日本の国際的な競争力が低下しないよう留意する必要があります。

 

労働時間短縮については、労働基準法の改正により残業時間の上限は「月100時間未満」となり、違反した企業には罰則が科されることになります。しかし、中小企業の仕事は中小企業だけでマネジメントできない部分があります。発注元である大企業から急ぎの仕事が入れば、可能な限り対応せざるを得ません。よって、大企業も下請けである中小企業の働き方を見据えて、中小企業の従業員に無理な働き方が生じないような発注をする必要があります。大企業は自社だけでなく、下請けも含めたサプライチェーン全体の働き方を検討すべきであるのです。

 

一方労働生産性の向上については、基本は業務の効率化と改革に向けた継続的な努力が必要になります。日本の企業や行政の働き方を変えていく、生産性を上げていくためには、最終的には権限と責任を最適に配することが重要だと思います。企業においては、コンプライアンスを守りつつ、権限や責任を委譲していくことが生産性に繋がります。そして、この権限と責任を最適化するためには、先ず全社的に業務の棚卸を実施することが必要です。業務が経営資源に見合った効果を上げているかを分析し、効果が見られなければ業務の削減、縮小、方向性の転換(改革)をすることになります。この業務の棚卸により、業務の内容や手順が明確になり、結果として多様な働き方(ダイバーシテイ&インクル―ジョン)や多能工化などが進み、業務を複数の従業員でカバーするジョブローテーションが可能になります。

 

そして最も重要なのは、経営者が先頭に立ってリーダーとしての旗を振り、発信を続けることで社内に意識改革を起こすことです。経営者自身の働き方改革に対する確固たるビジョンと危機意識を社内に対して、継続的に忍耐強く示していく必要があります。

 

今後、日本の企業に求められるのは、ビッグカンパニー(売り上げ)よりもグッドカンパニー(利益率や持続性)という考え方だと思います。民間企業や行政において、適切な権限と責任の分担がなされ、「生産性や利益率」が重視される国、「量より質」が重視される国に変化していく必要があるのではないでしょうか。