2014年5月 1日

自分史を編む

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ある金沢の老舗料亭で貴重な思い出に出会いました。

それは私が創業の頃に製作した25年から30年前の商品で、料理が盛られてきた

他の器は美しく立派な塗り物ばかりなのに、私の作った商品は塗りや箔も剥げて

いました。

 

箔は素地の上に貼り付けるので、長い年月の間、業務用に毎日使えば、どんなに

丈夫なものでも、箔が剥げ落ちてくるのは当然なのによく処分しないでここまで

使い込んでいただいたことに感謝しました。

 

この料亭は物を大切にしておられると、天保元年より184年続いた老舗のすべてが

読み覗えます。

創業時の思い出なのでお茶托を分けて頂き、新しいものをお届けしました。

私の手元にその商品はタイムスリップし、商品を見ていると当時の私の無我夢中さを

思い出させてくれ、技術はまだ素人でおぼつかなく、製作した商品がお客様に買って

頂けるかどうか心配でドキドキした当時が商品から伝わってきます。

 

箔の変色技術を用いた物で模様は不揃いで、本来なら私の技術のまずさが一目瞭然

ですが、しかし今見ると、素人に近い技術だが、味があり、温かみを感じます。

当時は失敗を許される資金も、時間の余裕もなく素人が1人で始めた商売で、今は

企業となり、技術も進化し箔の剥離もなく完成された商品を多種多様に生み出し、

成長させて頂いています。

私にとって、この商品は「箔一」という会社の歴史より、私自身の歴史を思い返させて

くれた大きな贈り物で、お金を使っても取り戻せない思い出に出会えました。

 

デパートに初めて営業に行き、何度も断られそれでも諦めずに「この商品は同じものは

出来ないオリジナルで自然に発色し、面白く差別化でき、きっとお客様に喜んで頂ける」

と必死で売り込んだことを思い出します。

 

何処の店にも相手にもされないあの時の悔しい思いや初めてデパートに採用になった

ときの喜びなど一瞬に思い出させてくれました。

 

今も「お客様には感動と引き換えにお金をいただける」「自分が感動しないものはお客様も

感動しないし、お金をいただけない」と物創りの原点を社員に口うるさく言って聞かすのは、

当時1つの商品を買って頂ける有難さを今も強く感謝しているからです。

 

しかし現在は会社も余裕が出来、企画、製造、販売、管理、部門がそれぞれ分かれており、

お客様やお得意先様から技術に対して厳しい指摘を受けたり、競争に負け本当に悔しい

思いや、屈辱感を受けることにより、良い商品やお客様の求める新しい技術が生まれて

くるのです。

 

作り手の思いや苦心から生まれた商品がわが子のように可愛く、愛しくお客様に感動を

伝えられるのです。

 

役者、建築家、俳優であれ自分の作品や演技に対してどんなに年を重ねても己の

技術・演技に満足することなく、自己研鑽をしているから成長があるのです。

 

物を生み出す者にとって、未熟な時代の自分の商品や技術から、過去と現在が即結び

つけられ「物創りの原点」を思い起こさせて頂き、過去の自分史を編む事が出来、

益々の成長の原点にもなるのです。